現代テニスの主流はトップスピン打法です。
でもそのメカニズムは、意外と知られていないのではないでしょうか?
スポーツの世界も、ハイスピードカメラを使った解析でいろいろな事がわかってきました。
百聞は一見にしかず!
ところで、Wilson社が従来より、縦横のストリングスの本数が少ないラケットを発売しました。
よりトップスピンがかるとの触れ込みです。
HPにはハイスピードカメラの動画と理論の説明がされています。
実は、この理論は日本発の論文に既に発表されているのですよ!
無論「スナップバック」のネーミングはウイルソン社の発案ですが・・・
詳しくは文末のサイトを見ていただくとして、多少の疑問も生じた事は確かですねえ~
かいつまんで、論文の内容とWilson社の主張を説明すると、トップスピン(逆も真なりでスライスも)は、ストリングスがボールが衝突する衝撃でたわむと同時に広がる(ずれる)、そして元に戻る時の反動で回転がかかるというものです。
ただそれだけ!
なのですよ(笑)
なるほどハイスピードカメラで撮った連続写真を見ると、この理論には説得力があります。
でもねえ~
いろいろ首をひねる部分もあります
まず、実験の条件が明確ではない事と、他の条件下で試されてない事ですね。
○打球した時点の、ボールスピード、回転、打点時のラケットのスイング方向(ライジング、落ち際、ほぼ平行、etc)による違いは?
○打つ側のスイングスピードの差による検証はされているのか?
人が打ってるようですが、これでは一定の条件とは言えないでしょう。
ちなみにゴルフにはスイングマシーンがありますが・・・
○スイングスピードとスピン量の相関は?
これはナダルのスイングを見ても興味のあるところですよね。
○打点時のラケット面の角度(論文掲載の画像ではほぼ90度に見えます)の違いによる検証がされていない
○ストリングスの形状、種類、張力(あまり差がないとの記述はありますが)の違いによる検証がされていない
Wilson社が公開した画像にいたってはデータの提示がないどころか、固定したラケット面にボールを当てただけ?(笑)
それと、スパゲッテイラケット(ルールで禁止)についても書かれてます。
※禁止なのはスピンがかかり過ぎるから?
スパゲッテイラケットとは、ストリングスにヒモ状のものを付け足して、変則的な回転をかけるモノだと思ってましたが、ストリングスの交差面に筒状のパイプ(中にストリングスを通す)を付け、ストリングスの縦横の摩擦を減らすモノもあったようです。
また、ストリング同士の摩擦を減らす為に、ストリングに塗布する潤滑剤について言及した論文もあります。
さて、率直な疑問ですが・・・
仮にフラット(無回転)で真っ直ぐ平行(厳密にはあり得ませんが)に飛んでくるボールを、平行にスイングしたラケットで、面をボールの飛んでくる方向に対して垂直(90度)にして、打った場合を想定します。
この条件下でも、ストリングスの歪みから元に戻る動き、Wilson社のいうところの「スナップバック」の現象は起きているはずですね?
でも、ボールに回転がかからないのは容易に想像できます。
当然ですよね(笑)
これはまさにフラットの打ち方だからです。
この点もちょっとねえ~
ここで話は変わりますが、卓球を考えてみましょう~
ラケットもボールも素材・形状・重量も違いますが、トップスピンはドライブ、スライスはカットボールに置き換える事はできますね?
卓球をしたことがある方はわかるでしょうが、卓球のラケットにはラバーが張ってあります。
卓球のドライブとカットはこのラバーがないと出来ませんし、ラバーの材質や厚みなどによって回転量は大きく違います。
※卓球のラバーについても多くの議論がありますし、ドライブとカットボールについて、ラバーの違いによる解析がされてるかどうかはわかりません。
ラケットは、ドライブは下から上方へ、カットは上から下方へ動かします。
テニスでもラケットの動きは同じですね。
ラバーにはストリングスのような動きはありませんから、ラバーとボールが接触し、その摩擦でスピンが起こると考えられます。
そう考えてみるとテニスにおいても同じなのでは?
ラケット面を、ストリングスで構成されてる面と考えるとわかりやすいかも?
かつてトップスピンで一世を風靡したボルグ、彼はストリングスをカチカチに貼り(80ポンドとも言われてます)、下から上に振り上げ、強烈なトップスピンをかけていました。
現在でもザラザラだったり、角型の断面のストリングスをスピンがよくかかるとの触れ込みで、販売しています。
この事を考えても、ストリングスの動きだけでスピンがかかるというのは、疑問ですね。
さて、ハイスピードカメラの画像や、様々な理論は別にして、プレヤーとして感覚的にわかることがあります。
多くのプレーヤーも、理論は知らなくても感覚的に理解してるのですよ!
トップスピンついて言えば、ボールの落ち際(ボールは下方向へ落下)を、ラケットを持ち上げるようにして下から上方へ向けたスイングで打つ、またライジング(ボールは上昇途中)のボールをラケットを上から下へ叩くようにして打つ、これはどちらもトップスピンがかかります。
特にライジング打法は、トッププレーヤーのほとんどが行っていますね。
なぜこれでトップスピンがかかるのかは、論文に書かれてる事だけでは説明出来ませんよね~
さてさて、ここからは推論です!
最近のグランドスラム大会のTV放送では、ハイスピードカメラによるスーパースローを見せてくれます。
ハードデイスク録画をして、さらにコマ送りにすると、いろいろなモノが見えてきますねえ~
それこそスピンの様子も良くわかります。
もちろん、ストリングスの動きも良くわかります。
かなりたわむものなのですよ!
ただ、ボールが接触しているのは、時間にすると4ms(ミリセカンド)くらいのものらしいですし、ラケット面を転がるような動きはありませんね。
じゃあなぜ回転が起きるのか?
先のスーパースローの画面の話に戻ると、ある事に気づきます。
ライジングボールを打つ場面です。
ジョコビッチもナダルでも、フェデラーにも共通して言えることです。
それはラケット面の角度です、ボールに対して約30度下向きの角度!
テニスボールは案外大きなものです、それに比べると縦横のストリングスの隙間は狭いものなのです。
角度をつけたラケット面のストリングス(この場合縦糸)に、テニスボールが、接触する時に上下のストリングスにわずかに時間差が生じます(上方にあるストリングスが先に接触する)。
当然、たわみの始まりと元に戻る時の時間にも差がでます。
この事が一定方向への回転を生むと思われます。
※実は論文もWilson社の説明でも終始Main(縦糸)の動きについてだけ述べています、Cross(横糸)の動き方の検証はされてませんね、この点も疑問です。
ラケット面を垂直にしてボールをヒットした場合には、ストリングスの戻りの時間差が生じないので、ぼぼフラットに、上向きにした場合には、逆にスライス(アンダースピン)がかかるのも合点がいきますねえ。
では
ボールの落ち際を打つ場合はどうなのか?
ほとんどのアマチュアプレヤーは、この場合が多いと思います。
これは、ショートラリーを考えると理解しやすいでしょう。
山なりのスローボールを、ゆったりしたスィングで、ボールの下から救い上げるように打つイメージです。
ラケット面は垂直か、やや上向きぐらい。
ストリングスに引っ掛ける感覚で打つと、トップスピンがかかります。
前文でラケット面の摩擦と考えられる事は、実はこの事なのかもしれません、ボルグのトップスピンも説明がつきます。
下方へ落下途中のボールを、ほぼ下から上昇中の垂直面で捉えると、ライジングで打つ場合と同様により上に位置するストリングスに先にあたります。
トッププレヤー同士の試合でも、このケースほうがスピン量が多くなるようです、アングルショットに良く使われています。
ただこの推論に、ラケットのスイング方向、スイングスピード、あるいはストリングの種類及び張力、がどう影響するのかはまだまだ検証の余地があります。
http://www.mira-fit.jp/suport-ronbun.htm
http://www.tennisclassic.jp/special/wilsonwebmagazine/special/1212_01.html
※最近、ラケットに加速度センサーを内蔵した部品を付けて、スピン量等を表示させる商品がいくつか販売されてます。
そのうちの、SONYのスマートセンサーの商品説明をみると、スピン量は-10~+10の範囲で表示するとあります。
おそらく、スイングスピードとラケットヘッドの傾きから計算していると思われます。